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12/21 「乙一会」

サンタの足音が近づいて来てますね。ひたひたと。
2回生の関口です。

12月21日に乙一会を執り行いました。
私情ですが、乙一の『失はれる物語』が私のほぼ初めての読書体験でした。駅の中の本屋でジャケ買いしたのを覚えてます。中学一年生でした。

乙一は不思議な作家です。ジャンル分け不能なほどに作風が広い、あとがきがやたらと軽妙、複数のPNを持つ、そんな不定型な感じの作家です。初期衝動を引き摺っているのか、私にとって心から正直に面白いと言える「面白い小説」とは、乙一のような小説なんです。この人の作家性について疑問を持つことはありませんでした。

なので、今回の読書会で触れた乙一という作家の「脆さ」は新鮮でした。

デビュー作『夏と花火と私の死体』の解説の中で小野不由美は、乙一への賞賛の合間にこんなことも書いています。この人は自然体で書いている、文章も素朴で、過剰なものはまるでない、と。乙一の読みやすい文体は、尖った特徴が無いとも捉えられます。ホラーを求めている人、ミステリーを求める人にとってはどこか肩透かしを喰らわせてしまうのかもしれません。だから確かに、ジャンル分けが出来ないということは、作風が広いうという事だけではなく器用貧乏であるとも言えるのでしょう。当日の乙一会でも、キャラクター性が薄く、文章に特徴が無い事は感想の中でちらほらと聞こえてきました。

作家としての立ち位置を鑑みて他の作家と比べたり、客観的な分析を加えると、色々と乙一という作家のボロが出てきます。《Calling you》の読書会へと途中からシフトしたのですが、「どうして顔も知らない人を助けたのか分からない」、「他に助ける方法は幾らでもあったんじゃないか」などなど、動機の薄さに対する割とドライな意見もありました。ホントに私にはそれが意外で。ぶっちゃけてしまうと、この日の活動は中高くらいから乙一好きな人が結構いて、その時に感じた事とか読み直して思った事とか、その共感だけで結構盛り上がれると思ってたくらいです。《カザリとヨーコ》のギャグっぽい逞しさとか《子猫》の話の愛らしさだけでそこそこ盛り上がれると思ってたんです。まあ流石に甘かった。
ただ、この日の話を踏まえても言いたいんです。個人的な感想を。身もふたもないけど。「読書会」の意義をうっちゃることになるけど。

乙一の話は面白いじゃないですか。

ジャンル作家と比べると手に取る機会は減ります。
ラノベ(?)にしてはキャラ性が薄く、文章にこれといって特徴が無い。キャラの行動の動機も所々弱い。
そうかもしれません。そういう事実を背負いながらも、っていうかそんなのと関係ないところで乙一の作品は面白いと私は思うんです。《天帝妖狐》や《BLUE》の痛切な感情とか、《暗いところで待ち合わせ》や《未来予報》の男女の二人の距離感とか、《神の言葉》や《優子》の纏わりついてくる静かな恐怖とか、全部面白い。 簡単に思いつけない様な突飛な設定と、それと上手く絡んで読者を引き込み、キャラとの「別れ」を惜しませる雰囲気の描き方、演出も巧い。筆致に関して、小野不由美はさっきの解説コメントに続けて、この人にはこういう自然体で書いていて欲しい、とも続けています。

乙一を擁護するような少し偏った主張になってしまいましたが。
私としては「こんな面白い話を書く人にも、作家として脆いところがあるんだ」と、新しい発見をしたような気分です。だからこれからは乙一を「作家」というより「何か面白い話を書いてるおじさん」として見るとしっくり来るかもしれません。
好きな○○の事に関して、「○○の何が好きなの?」と考えて困る事がたまにあります。考えすぎて「自分は○○が好きでは無いんじゃないか」とか思う事もたまにあります。でもそういう悩みに対して一番健全な答えは「何か知らんけど面白いから好き」なんじゃないかと。



では。
参加してくれたみなさん、司会が下手でごめんなさい。
来てくれてありがとうございました。
良いクリスマスと新年をヾ('ω')ノ
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